帰ってきたヒトラー
ストーリー
ヒトラーがタイムスリップして2014年現代に現れる。
本人はいたって真面目だけど、周りの人々からは「ヒトラーのそっくりさん」だと思われ、TV出演すると瞬く間に人気になっていく・・・
感想
前半は、コメディタッチで笑えるシーンが多かった。ナチスを題材にした作品は、かなり見ているけれど、これは他の作品とは一味違う。
ストーリーのテンポもよく、ヒトラーと、ヒトラーを取り囲む人達の掛け合いも面白く、あっという間に物語は進んでいく。
軽やかなストーリー運びの一方で、所々、直接的な表現ではないけど、胸がざわざわするようなシーンが徐々に顔を出してくる。
TV出演したヒトラーが、巧みな話術で聴衆の注目を集めていく。現代では「タレント」として描かれているが、これは過去、ヒトラーが類まれなる演説力で、聴衆を引き込み扇動していった様を彷彿とさせる。
ナチスの問題でいつも思うのは、なんでもない普通の人達が、環境や生まれた国、置かれた立場によって、恐ろしい人になり得る恐怖。個が集団に変わった時の、爆発的な力。なにも、サイコパスやシリアルキラーだけが怖いんじゃない。自分だって、自分の家族や友人だって、あの時代あの国に生まれていたら。ほんの1cm先には、まったく違う世界がある。
『帰ってきたヒトラー』でも、そんな普通の人々の怖さが、さり気なく、淡々と描かれていた。ヒトラーが「現代」で、街中の人々にインタビューをするシーン。
「偏見」「貧困」「右翼思想」「純血主義」。
70年が立ったいまも、排他的な感情は、根絶されない。きっと、0になる日はないんだじゃないかと思う。誰だって、自分と違う、未知なものに怖さを感じる事は少なからずあると思う。
あの時代には、そうした発想の先には、ガス室があった。
今の時代には?
この映画の中で、ヒトラーがこう語っていた。
ヒトラーただ一人が悪だった訳じゃない。
普通の、どこにでもいる人達が、心の奥底で考えた「自分を脅かす存在を排除したい」
という感情を、少しずつ膨らませて爆発させたのがヒトラーだった。
第二のヒトラーが現れないとは言い切れない。
その時に、自分がどちらを選ぶのか。
70年たったいま、明確に「ナチスは悪だった」と私たちは語ることが出来ている。
でも、あの時あの場所に自分が居たら。
いわゆる、泣かせに来ている映画ではなかったけど、現代に帰ってきたヒトラーの言葉から、何気ない、すぐそこにある恐怖を感じることが出来た、良い作品でした!